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2024/05/27

フランス滞在記20

 それにしても電車の中で大声で叫んだ男性は何を言っていたのだろう。きっと、スリ集団が満員の車内で何かゴソゴソとやっていることを認識して、明らかに異国の人間である我々に警告し、外に追いやったのだろう。つまり、助けてくれたのである。「メトロの中ではスリに気をつけろ」とは言われていたので、とにかく気をつけてきた。このときも気をつけていたのだが、これは防ぎきれない。叫ばれ、外に出されてもなお気付かなかったのだから。彼女たちは何も収穫が無かったから、ガッカリした表情でこちらを見つめて来たのだろう。

 「Navigo」と、ふと思った。カバンの中は何も取られていない。肌につけて身に着けていたパスポート等も大丈夫。しかし、ジャンバーの胸ポケットにチャックを閉めて入れていたNavigoはあるだろうか。慌てて左胸を触ると感触があった。チャックを開けてみると確かにNavigoがあったが、それ以外にもう一つ、コインのようなものが出てきた。「Vivra Vivre」という文字が刻印されたコイン。コインというよりもチャームのようなものである。金色の塗装がしてある。

 あのスリ集団は、Navigoを取らなかったのではないか。取らない代わりに、このチャームを警告のようなものとして入れたのではなかったか。チャームに書かれている「Vivra Vivre」という言葉をGoogle翻訳で調べてみると次のようなものだった。「素晴らしき人生」。

 さて、気を取り直してポンピドゥー・センターに行って、芸術作品に触れることになった。お目当ては、村上さんのお祖父様の作品である。インフォで聞いてみると、展示はされていないが厳重に保管してあるとのこと。劣化のないように安全に保管してあるということであろう。お目当ての作品を目にすることはできなかったが、お祖父様をきっかけに他の沢山の作品に触れられたのは嬉しかった。

 17時過ぎ、ポンピドゥー・センターから歩いてワークショップイセに行くこととなった。小雨が降っていて、徐々に雨脚は強くなっていきそうだった。必死にGoogleマップを調べて、ワークショップイセまで黙々と歩いた。

 18時前、到着。仕込みを開始する。持ち込みの照明が一つ壊れてしまった。すでに先日一つ壊れているので、パリで二つも壊れてしまったことになる。

 19時過ぎに、仕込みは完了。20時、開場。「ボンソワ」と言いながら、お客様を客席にご案内する。今日は9割がパリの方々である。

 20時半開演。21時40分終演。今夜も鳴りやまない拍手を頂いた。カーテンコールをいつ切り出してよいかわからないような雰囲気であった。終演後はお客様としゃべった。日本語をしゃべることの出来るフランスの方が何名かおられた。劇中で私が披露する「古畑任三郎」をすぐにわかってくださった方がいて、存分に笑ってくださっていた。上演中から反応は感じていたが、終演後に直接感想をいただけたことは
この上ない喜びであった。9月から日本の大学に交換留学生として行く男性とも話した。彼はパリで演劇をやっていて、将来は映像の方に就職したいのだそうな。流暢な日本語に驚いた。

 23時にワークショップイセを出た。すっかり遅くなってしまった。ホテルに到着して、すぐに夕食の準備をした。


写真①ポンピドゥー・センターにて


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この記事を書いた人

西宮市で演技レッスンをしています愚禿堂“グトクドウ“の中野です。愚禿堂“グトクドウ“は、演劇を体験してみたい方向けにワークショップを開催したり、すでに俳優として活動しておられる方にはマンツーマンでのレッスンをさせていだく演劇教室です。演劇を習い事の一つとして選択していただけるように日々研究をしています。

フランス滞在記202
フランス滞在記202
フランス滞在記203
フランス滞在記204

2024/05/26

フランス滞在記19

 1月25日(木)


 起床は10時前。昨晩は3時前に眠ったので遅い起床となった。朝食には、しじみの味噌汁を2杯飲んだ。そして伊右衛門の緑茶を飲んだ。両方とも西宮から持ってきたものである。無事に初日も明けたことだし、このあたりで日本を注入しておきたいと思ったのである。

 夕食用のバゲットを買いに東浦さんと出かけた。ホテル下のパン屋さんは木曜休みであったので、いつも買い出しに行くスーパーの近くにあるPaulというパン屋さんに行った。Paulは日本にもあるらしい。私はDONQしか知らなかったので恥ずかしかった。

 「3本買ったら4本目タダです」と笑いながら店員さんが言ったようだ。部屋がバゲットだらけになっても困るので笑いながら断りをいれた。愛想の良い店員さんであった。「シェシェ」と言われた。東浦さんは笑いながら日本版の感謝の言葉を伝えていた。「アリガトウ」と、その店員さんは言ってくれた。その後はスーパーに寄って少しビールを買い足した。

 ホテルに戻ってエレベーターに乗っていた時のことであった。急に機械音が無くなって電気が消えた。停止してしまったようだ。初めての経験である。どうしたものか。暗い状態が数秒続いた後、予備電源なのだろうか、操作盤の上にあるLEDが光りだした。バゲットとビールを抱えながら我々はしばし呆然とする。

 「光つけて」と東浦さんに言われて、スマホで操作盤を照らす。外部に通話するための説明書きを読んでいるところで、急に電源が戻ってきて、エレベーターは動き出した。乗るたびに「なんだか危ないエレベーターだね」という話はしていたのだが、肝を冷やした。


(midi12にて。)
 本日の出発は12時。今日はガレットというものを食べにいった。midi12というお店であった。ジョークの大好きな店員さん達であった。その後、ポンピドゥー・センターに出向くためにメトロの駅に向かう。





(クレープはフォークとナイフで食べるのが正式なのだそうな。)





 ホームは少し混雑していた。列車が到着したので乗車しようとするのだが、我々の前に何名かいた少女達が全く動かない。「行先が異なるのかな」と思い、彼女たちを追い越して乗り込んだ。列車内はギュウギュウである。その後すぐに先程の彼女たちも乗り込んできたのだ。列車内はさらにギュウギュウになった。

 メトロはまだ扉を閉められない。手を下げられないほどギュウギュウになっていて、右腕は少女の左腕と空中で交差して当たっている。なんだか私の腕を避けられているようだなと思った瞬間に、車内の男性が何かを叫び出して、我々4人を列車の外に追い出した。少女達も一度降りたが、彼女たちはいつの間にか車内に戻っていてこちらを見つめて首を傾げながら残念そうな表情をしている。筆者は何が起きたのか全くわからなった。

 メトロはようやく出発した。列車がホームから完全に去った後、一人の男性が何か大きなコインのようなものを掲げて我々のもとに走ってきた。よく見るとPOLICEと書いてある。

 スリが乗っていたのである。「何か取られたものはありませんか?」と言われて全員がカバンを見ると、チャックが開いていた。あまりにも電光石火のやり口であった。幸い、カバンから取られたものは無かった。下着の下に入れているクレジットカードとパスポートも無事であった。他の人も無事であった。私服のPOLICEはイヤホンで連絡しながらどこかへ去っていった。



写真①midi12メニュー
写真②気の良い店員さん。写真を撮られ慣れているし、村上さんは撮り慣れておられる。みんな、人生を謳歌している。
写真③この日の朝の写真。部屋のゴミを捨てに行った。ゴミ袋も3枚もらった。もちろんGoogle翻訳に大活躍してもらったわけだが、筆者にとっては大冒険であった。任務を完遂した後、はじめてのおつかいを成し遂げたようで、誇らしい気持ちになった。※今年で43になります

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西宮市で演技レッスンをしています愚禿堂“グトクドウ“の中野です。愚禿堂“グトクドウ“は、演劇を体験してみたい方向けにワークショップを開催したり、すでに俳優として活動しておられる方にはマンツーマンでのレッスンをさせていだく演劇教室です。演劇を習い事の一つとして選択していただけるように日々研究をしています。

フランス滞在記192
フランス滞在記192
フランス滞在記193
フランス滞在記194

2024/05/24

フランス滞在記18

 11時過ぎ、文化会館着。入口はすでに人でごった返している。「日本の匠の技展」というものがパリで大人気なのだそうな。あまりの人気で2週間の延長が決まっているらしい。




 仏文科の卒業生でこの文化会館に務めるОさんを表敬訪問。『リハーサル』のチラシを置いてくださっていたので、そのお礼や仏文科の話を1時間程した。私はウンウンと頷くしかできないのだが、話は随分と盛り上がっていたので嬉しくなった。


 話の最後には、「日本の匠の技展」のチケットを頂いてしまった。あまりの人気で時間制&予約制なのだが、Оさんが工面してくださったのだ。迷いながら会場入口にたどり着き中に入ってみると、大勢の人たちがいた。美学系の大学生も団体で見学に来るのだと、Оさんはおっしゃっていた。大学生らしい方々が、展示物を模写しながら熱心に学んでおられたのが印象的であった。

 パッシー駅からメトロを乗り継ぎ、ラ・デファンスに到着。一度ホテルに帰った。村上さんと増田さんが生ハムカルボナーラを作ってくださっていた。とても美味しかった。


 14時半前、再出発。ラ・デファンス駅からRERに乗ってオベール駅まで。1番出口を目指して歩き、dysonを確認。オペラ座の女を確認して、食品foodを確認して、キンタロウカフェを確認して、現代アートを確認して、ワークショップイセに到着。仕込みをして、ゲネプロを行なった。





 20時から開場だが、それよりも早くお客様があらわれた。予約無しで当日お見えになったお客様もおられた。20時半、増田さんの日本語、東浦さんのフランス語による前説が大盛況のうちに終わり、ついに開演となった。


 カーテンコールは拍手が鳴りやまなかった。拍手から手拍子に変わっていき、それが鳴り止まなくなった。なかなか挨拶に入れないのは嬉しいことなのかもしれない。どうしたらよいのかソワソワしていると、東浦さんが私の方向いてガッチリ握手してくださった今度は村上さんの方を向いて同じようにガッチリ握手をなさった。歓喜の表情が忘れられない。この方に出会えて良かったと思った。手拍子をどうにか落ち着かせ、ようやく挨拶に入った。いいカーテンコールであった。

 バラシまで終えて会場を出た。22時36分であった。開演20時半、終演21時半、バラシ終わり22時半。こういう日が続くことになる。

 ホテルに戻って、夕食をとる。その後はジブリ談議やドストエフスキーについての話があったり、とても文学的な時間が過ぎていった。筆者は文学部なのによく話についていけないのだが、3人が楽しそうに語らっているのをベッドから眺めた。



写真①
パリ日本文化会館を表敬訪問。卒業生がご活躍なさっている。


写真②
生ハムカルボナーラ

写真③
1月24日(水)、初日が無事に終わった。


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フランス滞在記182
フランス滞在記182
フランス滞在記183
フランス滞在記184

2024/05/23

フランス滞在記17

 1月24日(水)

 起床は7時20分頃。少しだけ長く眠った。今朝はパンの買い出しは無し。さすがに毎日毎日買いすぎて、パンが余ってきたのである。しかも私は今朝は食事を抜くことに決めていた。パリにやってきてから暴食が過ぎるからである。つい、あれもこれもと食べてしまう。昨晩は皆が寝静まった後、ビールを飲みながらバゲットをオリーブオイルと塩で食べてしまったほどであった。これが本当に美味しいのである。



 朝食を抜いて、その代わりに出かける準備をした。東浦さんとともに「パリ日本文化会館」に表敬訪問に出かける。10時前に出発。おなじみラ・デファンス駅からメトロ1に乗ってシャルル・ド・ゴール・エトワールを目指す。そこでメトロ6に乗り換えてビルアケム駅へ向かった。



 座席に着いて窓を見た東浦さんが、「あ」とおっしゃった。「ビルアケム駅は閉鎖」というシールが窓に貼られているようだ。別に今日に限ったことではなく、ここのところずっと閉鎖らしい。ビルアケム駅の一つ先で降りるか、一つ手前で降りるか逡巡した後、結局一つ手前のパッシー駅で降りることにした。「橋を見つけて渡りさえすれば目的地に着くハズだ」という見込みによるものである。なんといっても我々は方向音痴であって、最も組んではいけない2人。それが一緒に初めての場所に向かおうというのだから、なるべく単純な考え方をしておくほうがよい。



 パッシー駅で降たのは正解だったかもしれない。はからずともエッフェル塔を至近距離に見ることができたからである。色合いも雰囲気もいい。通天閣とはだいぶ異なっている。日本文化会館の開館までにはまだ時間があったので、セーヌ河岸を歩いて、エッフェル塔のすぐそばまで行くことにした。


「モーパッサンはいつもいつもエッフェル塔の中で食事をしていました。ある時、〈あなたはエッフェル塔がお好きなんですね〉と言われた。すると、モーパッサンは、〈エッフェル塔なんて大嫌いだ!〉と答えた。ではモーパッサンはなぜ、いつもいつもエッフェル塔で食事をするのでしょう」


 東浦さんがふいにそんな質問を投げかけてきた。「エッフェル塔の中で食事をすれば、その間はエッフェル塔を見ないですむから」というのがその答えらしい。


写真①エッフェル塔
写真②エッフェル塔








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西宮市で演技レッスンをしています愚禿堂“グトクドウ“の中野です。愚禿堂“グトクドウ“は、演劇を体験してみたい方向けにワークショップを開催したり、すでに俳優として活動しておられる方にはマンツーマンでのレッスンをさせていだく演劇教室です。演劇を習い事の一つとして選択していただけるように日々研究をしています。



 

フランス滞在記172
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フランス滞在記174

2024/05/19

『オトナのお芝居体験』でした

 『オトナのお芝居体験』ご来場いただき誠にありがとうございました。昨年のパイロット版をブラッシュアップし、ついに本編を封切り致しましたが、楽しんでいただけましたでしょうか。なるべくコンスタントに開催できるように致します。続きものではなく1回完結を目指しておりますので、「続けて参加しなきゃ意味ない!」とか一切思わずに、いろんなタイミングが合った時にエントリーなさってください。日常生活こそが最優先です。











 愚禿堂が目指しているのは、野球を例えに出せば、硬式でもなく軟式でもなく、「準硬式」の世界であるのかなと思っております。芸能でも芸術でもエンターテイメントでもなく、「場」としての演劇、ということに結局は行き着くのだと思います。











 難しい話はよしましょう。次回は7月7日(日)に開催することに決定いたしました。今日のワークショップの直後に決めました。また詳しくはインスタやウェブサイトに掲載致します。













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