それにしても電車の中で大声で叫んだ男性は何を言っていたのだろう。きっと、スリ集団が満員の車内で何かゴソゴソとやっていることを認識して、明らかに異国の人間である我々に警告し、外に追いやったのだろう。つまり、助けてくれたのである。「メトロの中ではスリに気をつけろ」とは言われていたので、とにかく気をつけてきた。このときも気をつけていたのだが、これは防ぎきれない。叫ばれ、外に出されてもなお気付かなかったのだから。彼女たちは何も収穫が無かったから、ガッカリした表情でこちらを見つめて来たのだろう。
「Navigo」と、ふと思った。カバンの中は何も取られていない。肌につけて身に着けていたパスポート等も大丈夫。しかし、ジャンバーの胸ポケットにチャックを閉めて入れていたNavigoはあるだろうか。慌てて左胸を触ると感触があった。チャックを開けてみると確かにNavigoがあったが、それ以外にもう一つ、コインのようなものが出てきた。「Vivra Vivre」という文字が刻印されたコイン。コインというよりもチャームのようなものである。金色の塗装がしてある。
あのスリ集団は、Navigoを取らなかったのではないか。取らない代わりに、このチャームを警告のようなものとして入れたのではなかったか。チャームに書かれている「Vivra Vivre」という言葉をGoogle翻訳で調べてみると次のようなものだった。「素晴らしき人生」。
さて、気を取り直してポンピドゥー・センターに行って、芸術作品に触れることになった。お目当ては、村上さんのお祖父様の作品である。インフォで聞いてみると、展示はされていないが厳重に保管してあるとのこと。劣化のないように安全に保管してあるということであろう。お目当ての作品を目にすることはできなかったが、お祖父様をきっかけに他の沢山の作品に触れられたのは嬉しかった。
17時過ぎ、ポンピドゥー・センターから歩いてワークショップイセに行くこととなった。小雨が降っていて、徐々に雨脚は強くなっていきそうだった。必死にGoogleマップを調べて、ワークショップイセまで黙々と歩いた。
18時前、到着。仕込みを開始する。持ち込みの照明が一つ壊れてしまった。すでに先日一つ壊れているので、パリで二つも壊れてしまったことになる。
19時過ぎに、仕込みは完了。20時、開場。「ボンソワ」と言いながら、お客様を客席にご案内する。今日は9割がパリの方々である。
20時半開演。21時40分終演。今夜も鳴りやまない拍手を頂いた。カーテンコールをいつ切り出してよいかわからないような雰囲気であった。終演後はお客様としゃべった。日本語をしゃべることの出来るフランスの方が何名かおられた。劇中で私が披露する「古畑任三郎」をすぐにわかってくださった方がいて、存分に笑ってくださっていた。上演中から反応は感じていたが、終演後に直接感想をいただけたことは
この上ない喜びであった。9月から日本の大学に交換留学生として行く男性とも話した。彼はパリで演劇をやっていて、将来は映像の方に就職したいのだそうな。流暢な日本語に驚いた。
23時にワークショップイセを出た。すっかり遅くなってしまった。ホテルに到着して、すぐに夕食の準備をした。
写真①ポンピドゥー・センターにて
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西宮市で演技レッスンをしています愚禿堂“グトクドウ“の中野です。愚禿堂“グトクドウ“は、演劇を体験してみたい方向けにワークショップを開催したり、すでに俳優として活動しておられる方にはマンツーマンでのレッスンをさせていだく演劇教室です。演劇を習い事の一つとして選択していただけるように日々研究をしています。